「中野区特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営の基準等に関する条例の一部を改正する条例」反対討論 全文
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ただ今、上程されました、第32号議案「中野区特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営の基準等に関する条例の一部を改正する条例」について、反対の立場から討論をいたします。
本条例の改正は、幼児教育・保育の無償化に伴う国の「特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営に関する基準」の改正に伴い、条例の一部を改正するものです。
昨年10月から、子育て世帯の負担軽減により出生率が上がることを期待して、幼児教育・保育の無償化が開始されました。無償化は消費税増税による増収分の一部を財源に活用し、2019年度は半年分として予算額3882億円を計上していましたが、開始早々、不足が生じ、約493億円の補正予算が組まれ、年間ベースでの事業費は当初、国と地方を合わせて7800億円規模を想定していましたが、上振れする見通しとなっています。
残念ながら、給食費は無償化の対象となっておらず、それまで保育料に含める形で徴収されていたおかずにあたる副食費は、実費徴収となりました。
もちろん、生活保護世帯などの低所得世帯については減免措置が取られています。
国の制度上の給食費の1か月の単価は、保育所の場合、ご飯やパンなどの主食費が3000円、おかずやおやつなどの副食費が4500円に設定されています。
それに伴い、食事の提供に要する費用のうち、「副食費について施設が保護者から受け取ることができる費用」に改正することが、主な条例改正の内容です。
加えて、先ほど私が反対討論をいたしました第31号議案の改正内容も含まれています。
23区内では、中野区を含む18区が、一般財源で副食費4500円を支出し、給食費を含めた無償化を実施しています。ちなみに中野区が負担する副食費は年間で約1億円とのことです。
子育て世帯には当然、無償化を歓迎する声が多数あると思いますし、すでに開始されている制度であり、今更感があることは重々承知していますが、子ども施策の優先順位がこれで良いのかという疑問が残ります。
幼稚園と認可保育所の1か月の利用料は、すでに所得に応じた負担が設定されており、応能負担となっていました。さらに、兄弟姉妹で複数の子どもが通っている世帯や、低所得世帯への軽減策も実施されていました。
この状況下で一律に無償化すれば、高額所得者ほど恩恵を受けることになり、税金の投入のあり方として、大きな疑問です。
また、入りたくても入れない待機児童が多数います。大多数の方が認可保育所を希望しますが、入園できず、やむを得ず、質の確保がなされていない認可外の保育所に通う子どもも大勢います。それでもなお、待機児童が出てしまいます。
つまり、無償化されても、利用できる施設がなければ意味がなく、入園できず職場復帰もできず、無償化の恩恵を受けられない方がいらっしゃることになります。
また、保育士不足で開園できない施設もあり、保育の質にも大いに影響する保育士の処遇の改善に税金を投入するべきだと考えます。特に、保育委託経費の流用を認める規制緩和や、保育士の配置や面積の基準の緩和など、保育の質より利潤追求に加担する国の姿勢に怒りを覚えています。
さらに、認可外施設での死亡事故発生率が高い中で、保育士の配置が、厚生労働省が定めた基準以下の認可外施設も、5年間は無償化されます。保育士数や保育計画が基準を満たさない施設で子どもの人数が増えれば、目が行き届かなくなる恐れは増すばかりです。
基準を満たさない施設も対象とする今回の「無償化」は、保育士が一人も配置されなくてもよいなど劣悪な施設も国が容認するものとなっており、大問題です。5年間は質についての条件すらなく無償化され、あきらかに質の低下を招くと言わざるを得ません。
加えて、企業主導型保育所も無償化の対象ですが、運営基準がゆるく、書類審査のみで認可され、区が立入検査もできません。保育の質を確保できよう、基準を満たすきちんとした施設の整備をはかることや、基準を満たさない場合の閉鎖命令などを含む厳しい対策を盛り込んだ法整備が必要だと考えます。
お隣の韓国では、2013年から0~5歳の子どもの保育と幼児教育をすべて無償化しました。韓国では、質の担保のための監査制度がしっかり作られており、無償化と同時に質の確保もはかられているそうです。日本のようにどんな施設でも無償化する、といった、ある意味、野放図な状態での無償化ではないようです。
アメリカ、イギリス、フランス、フィンランドなどでも、幼児教育の無償化が進んでいるようですが、そのために、教育や保育の質に関する調査を行い、どのような教育や保育を提供すれば、子どもたちが必要な能力を高めることができるのかを研究し、質を評価するための統一の基準をつくり、施設ごとの評価を「見える化」し、政策効果を高める仕組みをつくった上で、無償化を進めていると聞きます。
これに対して、日本は、保育士の配置や施設面積などのハード面を引き下げる話ばかりで、ビジョンや評価の仕組み等の検討は進んでいないと言えます。
巨額の税金を投じて無償化するのであれば、子どもたちが受ける教育や保育の内容と質を高めなければ意味がありません。急速な少子化を考えれば、子どもや子育て世帯への支援に思い切った政策投資は必要ですが、年間8000億円の効果的な使い方として、今回の一律無償化は理解できません。
また、私立保育所にかかる経費は、従来通り国1/2、都1/4、区1/4ですが、公立保育所、公立幼稚園、公立認定こども園については、10/10全てが区の負担になります。国の制度としての「無償化」ですので、財政的にも国がしっかり支払うべきだと考えます。
この条例改正は、区としてはせざるを得ないことは理解しますが、国の制度としての幼児教育・保育の無償化に疑義があり、賛成いたしかねます。
以上、雑駁ではありますが、第32号議案「中野区特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営の基準等に関する条例の一部を改正する条例」について、反対の討論といたします。